日本の法曹業界の問題点を次から次にえぐり出す、挑発的な一冊。
だが、少ないながら業界を取材した経験を振り返ると、指摘にはうなずけるものが多い。
立証責任が原告にあり、生じた損害以上の「懲罰賠償」がないわが国では、企業相手に裁判を起こしても、訴訟費用を考えれば間違いなく損をする。
裁判官が政治的判断を避けるため、行政相手では原告(国民)はまず勝てない。
裁判官と検察官の人事制度や距離の近さの問題、弁護士の数を増やさないようにする動きなど、業界全体に問題が山積なのが分かる。
著者は裁判を避ける泣き寝入りや、人権無視の取り調べによる冤罪(えんざい)などで国民の権利が侵害されていると強調。
そうまでして守りたい既存の仕組みとは何か、考えさせられる。(中公新書ラクレ、740円)(佑)
ニュースファイル ◎所属弁護士の著書への評価
当事務所の弁護士の活躍分野のニュースファイルです。
「行政訴訟の実務と理論」 ・斎藤浩 著 ・三省堂 定価4,200+税(2007年9月刊)
斎藤浩「行政訴訟の実務と理論」(三省堂)は、実務家の視点から行政訴訟の諸問題を論じ、時として従来の学説への痛烈な批判を含む(山田洋一橋大学教授、戸部真澄名古屋大学准教授)。
★ニュースファイルもくじ
本書は行政訴訟の第一人者である著者の手になるものであるが、その内容は書名のとおり行政訴訟の実務と理論の架橋を目指し、かつそれが見事に成功したものになっている。
著者は、大阪弁護士会所属27期の弁護士で、第一線の弁護士として活動するかたわらよくぞこれだけ内容の充実した書物をまとめることができたものだと感心する。また著書は、行政訴訟の第一人者というだけではなく日弁連の司法改革運動の中で常に縁の下の力持ち的な役割を果たしてきた。日弁連は2000年11月の臨時総会決議による歴史的転換をはかるまでは長い間法曹人口問題について消極的立場をとりつづけて来たが、著者はその中にあって早くから法曹人口の適正な増加なくして司法改革はあり得ないという主張をしつづけて来た。1999年度の小堀会長は、前年度の理事会で承認を得た「司法改革ビジョン」につづいて「司法改革実現のための基本的提言」というペーパーを理事会にかけたが、そのペーパーは、法曹人口につき「国民の必要とする量と質を受入れる」との方針を打ち出した。このペーパーの原案は、当時司法改革推進本部で活躍していた著者の起案にかかるものだったと記憶している。著者の考え方の根底には恐らくわが国の行政訴訟の件数が諸外国に比べて余りにも少ない(わが国の行政訴訟の新受件数は年間2000件程度であるのに対しドイツ50万件、フランス12万件、アメリカ3万7000件)ことを何とかせねば、つまり法曹人口を増加させ、困難を極める行政訴訟にも積極的に挑戦する弁護士を社会に送り出す必要を感じていたものと考える。
さて、肝心の本書の中身の紹介であるが、著者は行政訴訟の世界に暗いので十分に理解できないが、著者が本書の執筆で心掛けたのは「自ら行政訴訟の代理人となったり、大学で教え、準備をするときに教科書ではすぐフィットしないが、どうしても知りたいと思うことを書く」ことだったと言う。そのために著者は判例を深く読み込み、ナマの検索を心掛け、類書にないものとなっている。しかも判例の紹介は裁判所と目付と項目という従来のスタイルではなく省庁名、自治体名を調べて明記されている。さらに、著者は本書の各頁の脚注に事件にかかわる新聞記事や行政法学者の最新の論文をフルに引用し、実務と理論との関係が明確に分析されており学術書としても最高水準と言ってよい。
最後に、著者が感心したのは、本書の補章の「行政事件訴訟法改正経過」である。著者は、政府の司法制度改革推進本部の「行政訴訟検討会」の委員として今次の改正に大きな役割を果たした水野武夫弁護士(大阪弁護士会)のバックアップ委員をつとめ、改正作業に全力を傾けた。その過程では国会議員対策などさまざまな運度が必要であったが、本書はその経過を見事にまとめており、これだけでも必読の価値がある。
本書が行政訴訟の実践と法科大学院の教材などに幅広く利用されることを期待する。
弁護士 久保井一匡
◎マスコミ報道、コメント
◎意義ある裁判提訴、成果
◎国会公述、講演
◎著書への評価