弁護士法人FAS淀屋橋総合法律事務所

ニュースファイル ◎意義ある裁判提訴、成果

当事務所の弁護士の活躍分野のニュースファイルです。

●出産時に胎盤癒着が認められた産婦に対して、医師が不適切な胎盤用手剥離を行った過失により大量出血を来たして下垂体前葉機能不全(シーハン症候群)になったとして、損害賠償を認めた事件(2017年5月23日神戸地裁尼崎支部判決)


1、事案の概要

妊娠41週で陣痛が始まった原告は、被告病院に入院し、翌日9時50分に分娩しましたが、被告医師は、胎児娩出後わずか数分しか待機せず、超音波検査による確認もせずに、胎盤用手剥離術を施行しました。
13時10分には、原告の出血量は約1300gとなりましたが、被告医師は、輸液と子宮収縮剤を投与したのみで輸血を行わないまま経過観察を続け、午後5時30分には出血量約3600gとなりました。
19時過ぎに、被告医師は救急隊の出動を要請し、原告が搬送先の病院に到着した時には、分娩時からの総出血量は3700gに達していました。
原告は、緊急手術として子宮動脈塞栓術を受けましたが、広汎に脳下垂体前葉の機能が低下する障害が残り、分娩後の大量出血を起因とするシーハン症候群と診断されました。
*シーハン症候群《Sheehan syndrome/Sheehan's disease》
出産時の大量出血によって下垂体前葉に虚血性壊死(梗塞)が生じ、下垂体の機能が低下する疾患。産後に乳汁分泌不全・無月経などの症状がみられ、加齢とともに倦怠(けんたい)感・低血糖・低血圧などの症状が顕著になる。

2、争点 

原告は、被告には、胎児娩出後数分しかおかずにマッサージや胎盤圧出法を数分程度試み、胎盤剥離兆候を確認する時間をとらず、超音波断層法によって癒着胎盤の可能性も検討しないまま、無理な用手剥離を行った過失があると主張しました。
一方被告は、癒着胎盤でなく付着胎盤であり、胎盤遺残もなく、仮に癒着胎盤であったとしても、超音波断層法なしに用手剥離に着手しても不適切でなく、原告の大量出血が胎盤用手剥離や遺残胎盤に起因するものとは言い切れないなどと、全面的に争いました。

3、裁判所の判断

1) 被告のカルテの記載、および転送先への情報提供書から癒着胎盤であったこと、および、搬送先の経腟超音波検査から胎盤遺残であったこと
2) 癒着胎盤の用手剥離における注意義務を詳細に検討し、認定した上で、必要な手順を経ないまま用手剥離を行った過失
3) 用手剥離中、胎盤が容易にはがれないような感覚をもった時点で、癒着胎盤の具体的可能性を認識したといえるので、「剥離部分からの止血不能の大出血を避けるため、直ちに用手剥離を中止すべき注意義務が存したにもかかわらず漫然と用手剥離を続行し、胎盤を強引に剥離した過失」
4) シーハン症候群は、分娩時の大出血又はショックにより生じる病態であり、原告は17時30分までに3600gもの大出血をしているので、この出血がシーハン症候群の原因と認められ、癒着胎盤であるのに強引な用手剥離をした被告の注意義務違反との因果関係が認められること
5) 原告の損害額は、8級に相当する程度(労働能力喪失率45%)
と、原告の提出した私的鑑定意見書に基づいて全面的に被告の責任を認め、約4000万円を認容する判決が下りました。


●大阪市の不法行為に断! (2017年3月30日大阪地裁第2民事部和解)

此花区西九条に土地と倉庫を所有し、塗料倉庫として賃貸していたKさんは、1997年大阪市から、隣にある此花会館を此花総合センタービルに建て替えるために、他所に移って欲しいと懸命に頼まれ、断り続けていたものの、市政への協力と考え、西淀川区千舟の大阪市の所有地に倉庫を建てさせて、交換約束で借主ごと移転しました。
大阪市は千舟の土地・倉庫を1年ごとに行政財産目的外使用許可という形でKさんに使用させ、交換契約に向け千舟の土地の分筆、地積更正、西九条の土地の測量、境界明示、両土地が財産条例で交換できる価格範囲かを見極める鑑定などを実施していきました。
ところが、2011年市長が代わり、担当者がその激しい市政運営を忖度したのか、大阪市はKさんに千舟の賃料を支払えと言い出し、また1年ごとの使用許可も出ししぶるようになり、ついに2013年度の使用許可を拒否し、此花へ帰れと言い出しました。しかし此花の土地建物は、センタービルが建って車の通行も自由にはできなくなり、帰ることなどできないことは明らかですから、大阪市の方針は大阪市に協力して移転したKさんの財産を奪ってしまう不法行為です。
Kさんは弁護士を頼み、2014年に大阪市を被告として行政財産目的外使用不許可の取消訴訟を起こしましたが、いまひとつうまく進まないので、当事務所に来られました。

斎藤浩弁護士は、取消訴訟に加えて、使用許可の義務付け訴訟、交換契約する地位にあることの確認訴訟を追加し、たたかいました。Kさん側では太田勝義元市会議長が証人に出て、事実を証言してくださいました。
大阪地裁は、いくつかの請求のうち、Kさんに最も有利な交換契約の和解を強力にすすめ、成立させました。Kさんは晴れて、千舟の土地建物の所有権を、使えない西九条の土地建物と交換で得ることができました。
行政が無責任な対応に出た時は、敢然と行政訴訟に訴えることが重要です。


●中国人の氏をもつ日本人を、日本人の氏に変更 大阪家裁(2015(平成27)年9月9日許可)

O君は、お父さん(中国人Oさん)、と日本人のお母さんの間に生まれました。
お母さんは結婚のとき、夫のOという氏を選択しました。外国人の父には戸籍がないので、O君はお母さんの戸籍に入るのですが、お母さんもO君も日本人でありながら中国人の氏であるOを名乗ることになったのです。
ところがOさん夫婦は離婚し、お母さんは結婚前の日本人の氏に帰りました。その結果、O君はお父さんといっしょに暮らし、Oと名乗って中華学校で中三まできました。
日本の高校に進学する機会に、Oをやめて日本人らしい名にしたいとO君もお父さんも考え、私たちの事務所に相談して、家庭裁判所で戸籍法107条1項にもとづく許可を得ることになりました。これまで全く使ったこともない新しい氏の創出です。
「やむを得ない事由」にあたるかが焦点です。
お父さんも近々に帰化の申請をする予定があり、O君が創出する名を名乗るつもりであることなども家裁に言った結果、申立てから約1か月で、家裁は許可を出しました。類似の実例は判例検索してもありません。


●地価が下がっている土地の地代は減額できます。
 ~25%の減額
(2014年7月18日大阪地裁第18民事部)

大阪の衛星都市で、駐車場を入れて2000㎡ほどの借地で営業を営む会社ですが、その半分程度の991㎡の地主さんからの地代値上げ要求が強く、どんどん上がって、月額が98万円にもなって、約10年が経過していました。
当事務所で検討すると、減額請求できる要素が多く(近隣地代、この期間の不動産の価格低下傾向、公道との関係)、減額請求をし、調停ののち、大阪地方裁判所に賃料確認の裁判を起こしました。
同地裁は平成26年7月18日判決で、減額請求後の地代を75万4000円とする判決を言い渡しました。25%減額されたことになり、経営に大きなプラスとなりました。


●地価が下がっている土地の地代は減額できます。
 ~32%の減額
(大阪簡易裁判所2004年11月8日調停成立)

バブル期やその直後に地代を決めたままで、地価が下がっているのに高い地代を支払い続けているケースに使える事例。
大阪ミナミの商店街のことです。戦前から続いた借地ですが、平成で言うと平成6年に坪当たり7330円の地代で決まったのですが、その時の固定資産税評価は坪573万円でした。ところが10年経った平成16年には坪82万円に下がっているのです。
そこで依頼により、地代値下げの裁判を起すべく、調停前置なのでまず調停を起したところ、地主側の弁護士も立派な方で、悪争いをせず、たった2回の調停で、坪当たり4985円で合意しました。32%の値下げです。


●DV防止法による保護命令~夫の暴力に悩む女性のケース(2011年6月22日大阪地裁第1民事部保護命令)

平成13年10月から施行されたDV防止法により、夫婦間の暴力については、裁判所に対して保護命令を申し立てることができます。
保護命令とは、配偶者に対して6ヶ月間つきまとい等を禁止する接近禁止命令などのことです。
当事務所に相談に来られたXさんは、夫から約30年にわたり暴力を受け続け、夫の暴力で気を失ったり、骨折したこともあるとのことでした。
Xさんと当事務所の弁護士は、十分に話合いを行い、平成23年7月に大阪家裁に離婚調停の申立を行なうと同時に、大阪地裁に保護命令の申立を申立てました。
保護命令については、申立から2週間後の平成23年8月に認められ、その後、離婚についても無事成立しました。


●父親が乳児に揺さぶられっこ症候群(SBS)による脳障害を負わせたとして、被害乳児から損害賠償を請求された事例(当事務所は被告父親の代理人。大阪高裁2011年6月1日判決。請求棄却)

父親が乳児に揺さぶられっこ症候群である脳障害を負わせたとして被害乳児から提訴された事例。
鑑定書,双方からの意見書で揺さぶられっこ症候群の可能性が否定されたため,訴訟途中に,加害行為が揺さぶりから縊首等に主張変更された。
判決は,脳障害の原因を,ノロウイルス胃腸炎経過中に合併したHSE(出血性ショック脳症)である可能性が否定できず,父親の加害行為による無酸素性脳症であるとは認め難いとして請求が棄却され,控訴審も同様で確定。  


●後見開始申立に関する事例~兄弟が勝手に父の預金を引き出すのを早急に止めたい(2011年5月17日大阪家裁家事第4部審判)

当事務所では、後見開始申立のお手伝いもしていますが、詳しい事情を伺った際、新たな問題等が見つかり、後見開始申立だけでは問題が解決せず、他の方法も併せて取らなければならないことがあります。
今回は、そのような事例を紹介します。

■審判前の保全処分(Aさんのケース)

お父さんが時々判断能力が低くなることから、後見開始申立について相談に来られました。
申立の動機を伺ったところ、ご兄弟がお父さんの預金をかなり引き出して使用しているとのことでした。
通常、後見開始の申立を行ってから審判が下されるまで、1ヶ月~数ヶ月を要します。
したがって、単なる後見開始申立のみでは、その間、ご兄弟の行為を止めることができません。
しかし、財産の侵害等の危険性が高い場合には、「審判前の保全処分」も併せて申し立てることによって、早急に財産管理人が選任され、財産の管理や本人の監護に関する事項は、財産管理人にしかできなくなり、本人の財産を守ることができます。
そこで、Aさんのケースでは、平成23年4月、成年後見開始の申立と同時に、審判前の保全処分を申し立てました。
その結果、審判前の保全処分は、申立から約2週間後の平成23年5月に認められ、Aさんのお父さんの預貯金の口座は凍結され、勝手にお金が引き出されないようになりました。


●国道工事の用地買収価格の情報公開事例(情報公開・個人情報保護審査会2010年3月30日答申・国土交通大臣2010年5月30日裁決)

答申は四国地方整備局長が不開示とした次の文書を開示せよと言い、裁決はそれに従って開示しました。
「特定国道改築工事に伴う特定区間における用地買収に関する以下の文書1ないし文書7(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,審査請求人が開示すべきとする部分のうち,別紙の1ないし7の「開示すべき部分」に掲げる部分を開示すべきである」。


文書1:補償金算定調書に係る補償金明細表
文書2:補償金算定調書に係る補償金総括表
文書3:補償金算定調書に係る土地所有者の補償に関する内訳表
文書4:土地売買に関する契約書
文書5:請求書
文書6:不動産等の譲受けの対価の支払調書
文書7:公共用事業資産の買取り等の証明書

この答申の意義は、四国地方整備局長や裁決庁である国土交通大臣が最高裁の判例(2005年7月15日、同年10月11日、2006年7月13日)は同様の事例でこれらの情報開示を認めているにもかかわらず、この国道工事には最高裁判例の事例と異なり公有地の拡大推進に関する法律が適用されないとして不開示情報に扱ったことを覆し、開示させたことにあります。
答申全文は同審査会のホームページに掲載されています。

●事実無根の刑法抵触行為を理由になされた懲戒解雇を撤回させた事例(神戸地裁尼崎支部2009年6月9日決定)

医療従事者Bさん(40代女性)は、勤務先の医療法人から、事実無根の刑法抵触行為を理由に、懲戒解雇を言い渡された。
そのため、同医療法人に対して、地位保全及び賃金仮払の仮処分命令を求める申立をした。
審尋手続において、懲戒解雇を撤回し、名誉回復を認めるなど訴訟上の和解が成立した(平成21年6月)。


●開発許可を争うための原告適格新判断(大阪高等裁判所第13民事部2008年7月31日判決)

この判決は、原告適格判断であまりにも間違っていた地裁判決を平成14年行政事件訴訟法改正や小田急事件の最高裁大法廷平成17年12月7日判決の水準でただした判決です。
理論的な意義は開発許可を争う周辺住民の原告適格につき「周辺住民の健康,生活環境に係る被害のみならず,周辺土地自体及びその利用が,当該開発行為により受ける影響についても十分配慮し,所有者らの土地所有権等の財産権についても,物理的な被害のみならず,既に住宅等の開発が行われ,ないし討画されている場合において,これに対し直接的に著しい支障を受け,財産上の著しい被害を受けるおそれがある場合,そのような被害を受けないという利益をも,一般的な公益の中に吸収解消させるものとすることなく,個別的利益として保護するべきものとする趣旨を含む」という点でしょう。
個別事件としての意義は、原告適格の判断中で、本案の違法性判断がかなりの程度なされており、三井不動産レジデンシャルへの開発許可が違法であり、レオパレス21の戸建て住宅への建築確認が違法であるとする判決が出る可能性が高まったことです。違法性の判断が原告適格判断のなかでおこなわれることが当然にあることは多く指摘されているところです(斎藤浩「行政訴訟の実務と理論」89頁、小早川光郎編「改正行政事件訴訟法研究」ジュリスト2005年増刊77頁以下など)。
判決全文はPDFでどうぞ(長文につき3分割されています)。
判決1.pdf
判決2.pdf
判決3.pdf


●ジャズの澤野工房から著作権法違反のCD発売業者への発売禁止・違法CD回収の仮処分申請と実現による取下げ
(大阪地方裁判所2008年1月31日申立て、2月8日取下げ)

日本にヨーロッパジャズを広め定着させた澤野工房が、2004年以来育てすべての複製権を有するエストニアのトヌー・ナイソーピアノトリオ(これまでに3枚のCDが澤野レーベルから発売、来日コンサートも挙行)の少し古い演奏録音を、東京の業者が1200円と言う叩き売り価格で2月8日に発売するニュースが雑誌やネットで流れました。早速準備して仮処分を申請し、裁判所に交渉して異例に短期の審尋期日を入れてもらいその業者と交渉を重ねたところ、業者は2月5日には発売中止を決め、ネットなどで周知し、8日には商品すべてを当事務所に送付してきました。完全に要求が実現したので仮処分は取り下げました。


●緑地協定の違法な廃止認可(寝屋川市長)に断(大阪地方裁判所2008年1月30日判決 )

1995年に寝屋川市でライツシティ梅が丘という大規模マンション開発の計画があり、共同開発者・地権者で緑地協定を締結し良い環境をめざしていました。ところが大型地権者の一社が離脱し、計画は留保になりました。その大型地権者から土地を購入した枚方の業者が、新たな開発を計画し、じゃまになる緑地協定を廃止したいと考えました。廃止には地権者の過半数の賛成と市長の認可がいるのですが、賛成3、反対3で膠着しました。そこでその業者は2006年、自分の土地を子会社に売買したことにし、賛成を4にする悪事を考え実行し、市長もそれを認可してしまったのです。緑地協定を守りたい地権者が裁判を起し、審理の末、悪事を知っていたか見抜けなかった市長に、認可取消の判決が下されました。そして確定しました。


★ニュースファイルもくじ
◎マスコミ報道、コメント
◎意義ある裁判提訴、成果
◎国会公述、講演
◎著書への評価